本日のオススメ。

 ちょっと古めの本です。シリーズものの最終巻ですが、この作者はすでに新シリーズを4冊も出してますから、まー今更っちゃ今更です。
 でも私、このシリーズ好きなんですよね。
 この作者の書くお話は、ぶっちゃけどれも「甘い」です。善人のキャラが様々な困難に当たりながらも、人としての情を忘れずに最後まで諦めないで頑張ると、最後にはハッピーエンドが待っている。私の知ってる限り、どれもこんなカンジです。今回のこのお話の中で、「頭の固い平和主義で、独断で武器を破棄してしまったリーダーが、敵の襲撃に対し話し合おうと無防備に出て行ったら殺されてしまった、悪い人間ではなかったが困ったリーダーだった」という過去のエピソードが出てきたとき、私はここは自己パロの笑うところかと思いました(言いすぎ)
 特にこのシリーズは、その傾向が強いです。
 物語の舞台は共通していて、私達の世界と平行した、伝染病の脅威で滅びかけた世界です。基本的にシリーズの主人公達は、その滅びの世界を救うために、こちら側の平和な世界から向こう側へと訪れるという設定で、荒廃したその世界で、彼らは自分達が普通に培ったヒューマニズムに基づいて行動し、それが滅びた世界に対し良い影響を与えていきます。
 もともとの設定として、そういう良い影響を与える因子を持つ人間を選んで並行世界に送り込んでいるとなっていますから、単純に「都合よすぎ!」ともいえないですが、それでも物語が「甘い」という印象は否めません。
 でもね、それがたまらなく良いんです。
 私がこの作者の本を読み始めたのはこのシリーズの一作目の「時空のクロス・ロード―ピクニックは終末に (電撃文庫)」で、物語の筋としては単純で「平行世界に赴いた主人公が、平行世界に生き残っていた(平行世界の)友人を助け、彼らの集落を敵の襲撃から守った」、それだけです。(もちろん他の肉付けの部分はありますよ? あくまで主筋です。)主人公が具体的にやったことは、それだけでしかないんです。でも、最後に主人公はこう告げられるのです。
「お前がやったことは、限られた人間を助けただけかもしれない。だが、それによって信じる事、助け合う事を学んだ人々はやがてそれを広めていき、この暗黒の時代に灯る光となる。お前がやったことは、確実にこの世界を良い方向へ導くのだ」と。
 ……ダメです、私こーゆーのにめっちゃ弱いんです。そして、このシリーズは私のこの弱いツボを的確についてくるのです。

 さてさて、お話は戻りまして、このシリーズ最終巻「時空のクロス・ロード最終譚―一番列車は朝焼けに (電撃文庫)」、それまでのシリーズとは違い、滅んだ並行世界の住人が主人公やっています。物語は大きく前半と後半にわかれ、前半ではその主人公を通して、それまでのシリーズではすでに過去の事件として直接的には語られなかった「世界の滅び行くさま」が、そして彼の家族や前半ヒロインがその世界に蝕まれて行くさまがじっくりと書かれています。いやほんと切ないですわ。よく物書きが手軽に「家族はすでに死亡」とか設定しますが、そんな記号ですますのではなく、主人公の目を通して温かい家庭が丁寧に書かれたあげくの死別ですよ? 自分もよくキャラ設定に「家族が死亡」と気軽に設定してたモンですから、身につまされた感じです。
 後半になると、その世界で精一杯に生きていく主人公達の姿が見られ、ここでいままでのシリーズに近い雰囲気になります。後半の最大の見所は、やはり後半ヒロインがピンチになる場面でしょう。もちろんというかそのピンチは主人公達の行動に偶然が重なって脱するわけですが、その偶然の部分がある面必然にも見え、とてもよく出来ています。一言で言えば「アイツ(前半ヒロイン)が守ってくれたんだ」になるのですが、そうなるまでの経緯が自然で、本当に前半ヒロインが後半ヒロインを救ったように思えるのが、そして前半ヒロインなら当然そうしただろう思わせるキャラ立てがとてもとても印象深かったです。
 このシリーズは、最初の3部作、新シリーズ三部作、そしてこの最終巻と7冊出ていますが、基本的に各エピソードは独立していますから、どこから手にとっても大丈夫になっています。逆に順番に読めば、以前のエピソードの登場人物が顔を見せていたりして楽しめます。
 まずはお気軽に一冊どうぞ。そして気に入ったら、また別のお話を手にって見てください。