とある無双時代の名も無き武将の手記。

 私、祭亮妃と申します。この乱世で生き抜く術を得んと、張遼様にお仕えする身にございます。
 張遼様はこの乱世にあって高潔なる武を貫く、ナマズヒゲの素敵な殿方でいらっしゃいまして、お仕えする者と致しましてもまこと鼻の下の伸び…あ、いえ、身の引き締まる想いです。
 さて、そんな張遼様にささやかでもお役に立ちませんと身に付けた火計にてオイタをなさる敵兵の皆様をたしなめておりますと、そんな私の姿をお目に留めたのでございましょう、名高い蜀の軍師、孔明様よりお誘いの文を頂きました。張遼様にお仕えする身とはいえ、身に余る光栄と言えましょう。
 張遼様を戦場にて討ち我が未練を断ち切ってくださるというお気遣いにも感銘を受けた私は、そのお誘いを受けることと致しました。
 ああ、張遼様、申し訳ございません……!
 でもどうせお仕えするのでしたら美形の方がよいという女心、分かってくださいませ!

 さて、心機一転蜀にて身を立てる日々が続きます。
 伏竜こと孔明様は、全てを見透かす涼やかな瞳の素敵な殿方でいらっしゃいまして、お仕えする者と致しましてもまこと鼻の下の伸び…あ、いえ、涼やかなる志に思いを馳せずにいられません。
 さて、そんな孔明様の大計のささやかでもお力添えせんと火計にて私が敵拠点の皆様にお灸を添えておりますと、その技を火遊び好きで名高い周瑜様(あ、深い意味はありませんことよ)にお認め頂き、またもお誘いの文をいただきました。まこと非才なるこの身を過分に評して頂き、光栄と言うほかありません。ので、一瞬も迷うことなく、そのお誘いを受けることと致しました。
 次の戦場にて孔明様をお連れして待ち合わせ場所に向かう私は、恥ずかしながら年甲斐もなく浮かれていたのかもしれませぬ。
「やはりここに伏兵を配していましたか……」
 ああ、分かっていても対策を立てない孔明様、素敵すぎます!
 ならばこの、どうせお仕えするならより若い美形という女心もご理解頂けますよね!
 恨むならば、まだ妖姫衣*1を手に入れていなかったプレイヤーを恨んでくださいまし!

 さてさて、新たなる主は、知勇に秀でながらさらに美周郎と名高い周瑜様。加えて芸事にも通じる雅なるお方となれば、まこと非の打ち所のない殿方といえましょう。
 念願の妖姫衣も支給された私と致しましても、もはや乱世の宿業に身を焦がされることもなく、今度こそ呉にて専心誠意、健やかに穏やかにお仕えすることができましょう。
 あ、とはいえ折角の妖姫衣には、喜んで袖を通させていただきますが。あらあら皆様、「紫の妖姫衣が異常なまでに似合いますね」などとおだてないで下さいませ。私、ブチギレますわよ? 
 そんな日々の中、主より賜りし『古錠刀』を手に戦場を駆ける私は、かつての主である張遼様と再会致しました。
 この乱世にあって変わらず高潔なる武の道を貫かれる張遼様には、かつての因縁があってなお、私の戦場での振る舞いをお褒めいただけました。
 ああ、張遼様……! 思えば、鈎錬刀の扱いやすさに憧れて張遼様にお仕えせんとした事がこの身の乱世にて身を立てた始まりであったというのに、運命の糸はどこでもつれてしまったのでしょうか……!
 ああ、恨むならば、まだ妖姫衣を手に入れていなかったプレ(ry
 もし張遼様、わずかでも私のことを未練に思ってくださいますなら、どうか貴方様の下に戻ることをお許しくださいませ! 妖姫衣を手に入れた今となっては、もはや呉に未練はございません!
 さてソレはソレとして、戦場にて相対した今はそーれ、火球連打+援護射撃雨あられー♪*2
 ……私とした事が、いささかやりすぎてしまったのでございましょうか?
 私の切なる願いは残念ながら張遼様にはお届きいたしませなんだようで、新たなお誘いはいただけませんでした。                        ……ちっ。
 かくて我が呉は、天下分け目の決戦へと挑みます。もはや記すことはございません。
 この非才なる身の全力を以って周瑜様をお助けし、とうとう天下は呉の下に統一されたのでございます。
 光栄なる事に私のささやかなる働きをもご評価頂き、フリーエージェント宣言が可能となりました餞別にと、周瑜様よりご自身と同じ刀とプレイヤーのもう一つの未取得であった姫将鎧とを賜ることが出来ました。
 「いつか共に剣舞を」とのお言葉に、この身は震える思いにございます……が、申し訳ありません、前方しか攻撃範囲のない『古錠刀』はプレイヤーの好みではないのでございます。
 独立の道連れには、最終ステージにて輸送兵長さまをお引止めした際にお譲り頂いた名槍『竜胆』を携えて参りますので、どうかお気遣いなく。

 かくて私の、落ち着いた丁寧な語り口で姫将鎧に身を包み正統派の槍術にて『竜胆』を振るうその様は、自ら称するは少々気恥ずかしい事ながらも、どこから見ても凛とした名家の女武者と映ることでしょう。
 リプレイモードもなく称号の確認すらもできないこのゲームにおいては、紫の妖姫衣のよく似合う「不義不忠の士」であった私の過去を知る者は誰もおりますまい。

 殿方はダマされるのですわ、おーーーほっほっほっほっほ!!

*1:三国を全て渡り歩くと手に入る衣装

*2:簡単に言うとハメ技一歩手前